AI研究

GPT-5レベルのAI言語モデルと人間の脳波:内部表現の驚くべき類似性

AIは人間の脳のように言語を理解しているのか?

GPT-5に代表される最先端の大規模言語モデル(LLM)が驚異的な言語能力を示す中、科学者たちは一つの興味深い問いに挑んでいます。「これらのAIモデルは、人間の脳と似た方法で言語を処理しているのだろうか?」

近年の研究により、言語モデルの内部で形成される意味表現と、人間が言語を理解する際の脳活動パターンの間に、予想以上の類似性があることが明らかになってきました。特に脳波(EEG)計測を用いた研究では、モデルの特定層の表現が人間の脳内での言語処理と対応することが示されています。

本記事では、GPT-5相当のモデルと人間の脳波信号の対応関係について、最新の神経科学・AI研究の知見を分かりやすく解説します。

モデルと脳を比較する:RSAとエンコーディング手法

表現類似性分析(RSA)による幾何学的比較

AIモデルの内部表現と脳活動を比較する代表的手法が**表現類似性分析(RSA)**です。この手法では、モデル内部のベクトル表現同士の類似度行列と、脳波信号パターン同士の類似度行列を作成し、両者の相関を計算します。

例えば、「犬」「猫」「自動車」という単語に対して、モデルがどのような内部表現を形成するか、そして人間の脳がどのような活動パターンを示すかを比較します。もしモデルが「犬」と「猫」を近い表現として扱い、人間の脳も同様のパターンを示すなら、両者は意味空間を共有していると言えるでしょう。

実際の研究では、28チャンネルのEEG計測で各単語読み取り時の脳活動をベクトル化し、モデルの表現空間との類似性を検証しています。この分析により、モデルと脳が意味的な距離感をどの程度共有しているかが定量的に明らかになります。

エンコーディング・デコーディングによる予測精度の検証

もう一つの重要なアプローチがエンコーディング手法です。これはモデルの内部表現から脳波パターンを予測する線形モデル(リッジ回帰など)を構築し、その予測精度を評価する方法です。

逆に、脳波信号からモデルの意味ベクトルや元の刺激語を再構成するデコーディング手法も用いられます。予測精度が高ければ、モデルと脳の表現の間に強い対応関係が存在することを意味します。

最新の研究では、**CKA(Centered Kernel Alignment)軌跡比較分析(LTC)**といった新しい指標も導入されています。LTCでは、脳波の時間的変化とモデルの層進行による内部状態の変化を対応させ、信号強度やベクトル角度の変化まで含めた動的な比較が可能になっています。

単語レベルから文脈レベルへ:意味表象の階層的対応

文脈依存の意味表現がカギ

言語の意味は文脈によって変化します。「銀行」という単語も、「川の銀行」と「お金を預ける銀行」では全く異なる意味を持ちます。

GPT-2のようなコンテキスト対応埋め込みを持つモデルは、文脈に応じて単語の内部表現を動的に変化させます。興味深いことに、この文脈依存的な表現は、人間の脳の言語野(特に左下前頭回)で観測される活性パターンの構造をよく捉えることができます。

従来の静的な単語埋め込み(GloVeなど)と比較すると、文脈対応モデルの方が脳反応を遥かに正確に説明できることが報告されています。これは、人間の脳もモデルと同様に、文脈を統合した動的な意味表現を形成している可能性を示唆します。

意味空間の類似性:有意な相関の発見

複数の研究で、モデルと脳の間で意味空間の対応が確認されています。RSA手法による分析では、相関係数は小さい(0.01オーダー)ものの、統計的に有意な正の相関が報告されています。

これは、モデルと脳が単語間・文脈間の意味的距離を部分的に共有していることを意味します。つまり、AIモデルが学習した「意味の地図」は、人間の脳内に存在する意味の地図と、ある程度の共通性を持っているのです。

N400成分との整合:予測誤差の共通メカニズム

文脈レベルでの意味統合において、特に注目されるのが脳波のN400成分です。これは、文脈に適合しない単語を読んだ際に、約400ミリ秒後に生じる脳波の変化で、意味統合の難易度や予測誤差を反映するとされています。

最新研究により、LLMの中〜高層の表現がこのN400成分に相当する脳反応と対応することが示されました。モデルの中間層は、文脈内での意味処理において中心的な役割を果たし、その挙動が脳波で観測されるN400パターンと一致するのです。

これは、モデルと人間の脳が、文脈に基づく予測と予測誤差の修正という、共通のメカニズムで言語を処理している可能性を示唆します。

モデルの「中間層」が脳と最も似ている理由

逆U字型の対応パターン

多くの研究が一致して示す重要な発見があります。それは、LLMの中間層が人間の脳反応と最も高い相関を示すという現象です。

モデルの浅い層では脳活動パターンをほとんど捉えず、層が深くなるにつれて対応が向上し、中間のある地点で最大となった後、最終出力層に向かうにつれ再び相関が低下する、という逆U字型のプロファイルが観察されています。

8種類のオープンソースLLMを比較した研究では、各モデルの層深度の約50%前後(中間層付近)で、人間の認知パターンが最も明確に表現されていました。これらの層では、モデル内部で抽象的な意味パターンごとに表現がクラスタ化し、人間が言語課題を解く際の脳波パターンの分類構造とほぼ対応していたのです。

浅い層は表層的、深すぎる層はタスク特化

なぜ中間層なのでしょうか?

浅い層(入力に近い層)の表現は、主に表層的・逐次的な情報をエンコードしています。音素や文字レベルの特徴、直近の単語への注意など、言語の「表面的」な処理を反映しており、脳の聴覚的応答や初期視覚処理と対応しやすい傾向があります。

一方、深すぎる層(出力に近い層)は、モデル固有のタスク寄りの表象となります。次単語予測や分類といった具体的なタスクに最適化された表現であり、人間の一般的な言語理解とは異なる様相を示すため、脳との相関は中間層ほど高くありません。

中間層こそが、文脈の統合と抽象的な意味表現の形成という、言語理解の核心部分を担っているのです。

課題関連の脳信号のみが対応

興味深いことに、課題を遂行している際の脳信号にのみ、モデル表現との対応関係が現れることが報告されています。前頭部の固視関連電位(FRP)に基づく脳波では中間層との正の相関が得られましたが、反応ロックERPや安静時EEGとの相関はほぼゼロでした。

これは、モデルがタスクに内在する論理構造を捉えている場合に限って、脳とのアライメントが観測されることを示唆します。つまり、AIモデルと人間の脳は、単に統計的なパターンを処理しているのではなく、言語の意味的・論理的構造を共通の方法で扱っている可能性があるのです。

主要研究事例:モデルと脳の対応を実証

文章要約タスクでの深層表現の重要性(Zhang他、2025)

健常成人にニュース記事を単語ごとに呈示して読ませ、28チャンネルのEEGを記録した研究では、BART、PEGASUS、T5といった要約モデルを用いた分析が行われました。

結果、深い層ほど脳波表現との類似度が高まる傾向が確認されました。特に脳活動との類似度が高い隠れ層は、モデルの要約性能にとって極めて重要で、その層を損なうと性能が大幅に低下しました。この相関は、モデルの複雑性などの要因を除外しても有意であり、モデルの深層表現が人間の言語理解プロセスに対応していることを示しています。

抽象パターン認識と前頭部脳波(Pinier他、2025)

被験者に図形アイコン列から抽象パターンを推論させる課題で、64チャンネルのEEGを記録した研究では、8種類のLLMとの比較が行われました。

中間層付近(層深度の約47%)でモデル表現のパターン分離度が最大となり、抽象パターンのクラスが明瞭にクラスタ化されました。その層のRDM(表象距離行列)が人間の前頭部FRPのRDMと正の相関を示し、モデル内部の抽象ルール表現が人間の認知過程を部分的に模倣していることが明らかになりました。

多言語文章読解と意味統合(Xiao他、2025)

英語および中国語話者に自然文脈の文章を読ませ、128チャンネルのEEGを記録した研究では、16種類の事前学習LLMとの対応が分析されました。

中〜高層のモデル表現が語の意味統合段階に対応し、EEGのN400成分(約400ミリ秒の意味統合指標)と整合することが確認されました。ただし、人間の脳が連続的・逐次的に意味処理を行うのに対し、モデルは離散的・段階末ごとのバースト処理をする傾向があり、リアルタイムの動態には相違が見られました。

また、英語データでモデル-脳対応が強い一方、中国語ではやや低下する傾向があり、モデルの訓練言語による偏重の可能性も示唆されています。

高性能モデルほど脳に近い(Mischler他、2024)

てんかん患者の臨床記録を利用した皮質内EEG(ECoG)実験では、複数の高性能LLMを比較し、モデルの埋め込みから脳応答を予測する精度を評価しました。

結果、言語モデルの性能が高いほど脳予測精度も向上し、脳活動との類似性が高くなることが判明しました。高性能モデルでは、より少ない層で人間の脳と同等の階層処理を実現しており、モデル間でも階層構造が収れんする傾向が見られました。特に文脈情報の活用が、モデル性能と脳類似性の双方を改善する重要な要因であることが示されました。

神経意味論とAI設計への応用可能性

脳の意味表象の解明に貢献

**ニューロセマンティクス(神経意味論)**の観点から、この対応関係の研究は人間の脳が意味をどのように表象しているかを解明する手がかりとなります。

モデルの意味空間が脳の意味表象と類似しているという結果は、脳内で語や文脈の意味が幾何学的な空間構造(ベクトル関係)としてコードされている可能性を裏付けます。これは、従来の言語学や心理学では捉えきれなかった、脳の計算論的側面を明らかにする重要な知見です。

予測符号化理論の検証ツールとして

言語モデルの予測性能と脳活動の対応の強さには相関があることが報告されており、脳が次に来る単語の予測を階層的に行っているという予測符号化理論を、モデルとの比較から検証する研究も現れています。

N400やP600といった予測誤差に対応するERP(事象関連電位)成分を、モデルの内部状態の変化と対応付けることで、人間の言語理解メカニズムをより精密にモデル化できる可能性があります。

脳アライメント型AI開発の可能性

モデルアライメントの観点からは、脳との類似性指標を用いてAIモデルを評価・改良する方向性が注目されています。

研究が示すように、性能の高い言語モデルほど脳活動をよく予測でき、より「脳らしい」内部表現を獲得しています。脳とのアライメント指標をモデル開発の目標に据えることで、人間の認知過程に近い情報処理を行うモデルを設計できる可能性があります。

また、脳活動との高い類似性を示す層がモデル性能に寄与する重要な役割を果たすことから、人間の脳の言語処理メカニズムに合わせてモデルをチューニングすることで、性能向上や効率化が図れる可能性も示唆されています。

脳波デコーディングへの応用

将来的には、LLMを利用した脳波デコーディング(脳信号から被験者が聞いている単語や文の再構成)も期待されています。モデルと脳の対応関係を利用すれば、非侵襲的な脳波計測から、より高精度に意味情報を読み解けるようになるかもしれません。

これは医療分野での意思疎通支援技術や、脳-コンピュータインターフェース(BCI)の発展にもつながる可能性を秘めています。

課題と今後の研究展望

EEGの技術的限界と克服

EEGは時間分解能に優れる一方、空間解像度の低さやノイズの大きさという課題があります。モデルとのわずかな対応を検出するためには、高度な信号処理や機械学習技術が必要です。

今後は、大規模コーパス脳波データの構築、マルチ被験者解析、さらにはEEGと他の脳イメージング(高解像度fMRIやMEG)の統合による、時間-空間両面での対応マッピングが進むと考えられます。

意味と統語の分離という難題

脳波信号から純粋に意味的な成分と統語的な成分を分離して評価するのは容易ではありません。現実の脳波成分は複雑に重畳しており、完全な分離は困難です。

この課題に対して、機械学習モデル側で「統語 vs 意味」次元の表現成分を解きほぐすアプローチも模索されています。モデルと脳の対応関係をより精緻に理解するためには、こうした多成分の解析が一層重要になるでしょう。

多言語・多文化への展開

現状の研究では英語を中心とした分析が多く、他言語での検証はまだ限られています。前述の研究でも、中国語では英語ほど強い対応が見られなかったことから、モデルの訓練言語による偏りが存在する可能性があります。

今後は、多様な言語・文化圏でのデータ収集と分析が必要です。これにより、言語普遍的な脳-AI対応と、言語固有の処理の違いが明らかになるでしょう。

まとめ:AIと人間の言語理解の接点

GPT-5相当の大規模言語モデルと人間の脳波信号の対応関係研究は、AIと神経科学の新たな接点として急速に発展しています。

重要な発見として、以下の点が挙げられます:

  • モデルの中間層の意味表現が、人間の脳活動パターンと最も高い対応を示す
  • 文脈依存的な表現が、脳の意味処理メカニズムとよく整合する
  • モデルと脳は共通の意味空間を部分的に共有している
  • N400成分などの意味統合プロセスに、モデルの内部処理が対応している
  • 高性能なモデルほど、脳の処理様式に近い表現を獲得している

一方で、処理の時間的ダイナミクス(連続 vs 離散)や、訓練データの言語的偏りなど、モデルと人間の脳には重要な相違点も存在します。

この研究分野は、人間の言語理解メカニズムの解明と、より人間的なAIの開発という、二つの方向性に貢献する可能性を秘めています。今後、計算論的神経科学とAI研究の融合により、言語の本質に迫る新たな知見が生まれることが期待されます。

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