AIと人間の協創が生み出す新たな集団創造性のダイナミクス
AIが急速に発展する現代社会において、AIを「競合する存在」ではなく「協働するパートナー」として捉える視点が広がっています。集団創造性とは、複数の人間が協働して新しい知識やアイデア、作品を生み出すプロセスを指しますが、その中にAIが参加することで、創造プロセスには新たなダイナミクスが生まれています。特に教育・学習分野では、AIと人間の協創がどのように知識構築や創造的思考を促進するかが注目されています。
本稿では、AIと人間の協創による集団創造性を支える理論的枠組みとモデルに焦点を当て、教育工学、知識創造理論、HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)、生成AIの教育応用など複数分野にまたがる視点から、代表的な理論モデルやその実践的意義を解説します。
協創的創造性を支える理論的枠組み
知識創造理論から見るAIと人間の相互作用
組織論の分野で提唱された野中・竹内のSECIモデルは、暗黙知と形式知の相互変換による知識創造プロセスを説明する枠組みとして広く知られています。このモデルでは、(1)共同化(Socialization:暗黙知の共有)、(2)表出化(Externalization:暗黙知の言語化)、(3)連結化(Combination:形式知の組合せ)、(4)内面化(Internalization:形式知の習得)の4つのモードを通じて、螺旋的に知識が創造されるとされています。
この知識創造サイクルにAIを組み込む試みとして、Barretoら(2025)はSECIモデルとChatGPTの統合を提案し、高等教育における生成AIの活用を検討しています。具体的には、以下のような応用が考えられます:
- 共同化(Socialization)段階:AIが学習者同士や教師との対話を媒介し、暗黙知共有の「場」を広げる
- 表出化(Externalization)段階:AIがアイデアの文章化・図解を支援し、暗黙知の形式化を促進する
- 連結化(Combination)段階:AIが大量の情報を検索・分析して新しい知見を構築する
- 内面化(Internalization)段階:AIがパーソナライズしたフィードバックや練習問題を提供し、知識の定着を助ける
日本の教育分野でも「知識創造的協調学習」の重要性が指摘されており、生成AIを単なるツールではなく「共創者」として位置づけることで、学びの質が向上するとの見解があります。
分散認知と拡張認知からAI協創を捉える新視点
教育工学や認知科学では、創造的思考を個人の脳内だけでなく集団や道具を含むシステム全体で捉える視点が重視されています。分散認知の理論によれば、知的活動は複数の人と外部ツールに分散して行われ、創造プロセスも「分散した創造性」としてグループ内の相互作用から生まれる協働的な創発とみなすことができます。
Sawyer & DeZutter(2009)は「分散した創造性」を提唱し、一つのグループが生み出す創造的成果は全員の対話や貢献の相互作用によって創発的に形成されることを示しました。この枠組みでAIを捉えると、AIも創造的認知プロセスに組み込まれた一種のエージェントまたは認知アーティファクトとなります。AIは人間とは異なる知識やアルゴリズム的思考を提供し、人間メンバーとの相補的な役割分担によって全体の創造力を高めることができます。
さらに、Clark & Chalmers(1998)による拡張認知の見解では、外部の道具や環境が人間の認知の一部となり得るとされます。高度なAIシステムは人間の認知を拡張する知的道具とみなせ、記憶想起や発想の一部をオフロードしたり、人間には難しいパターン発見を行って洞察を提供したりします。
生成AIとの対話は人間の思考様式そのものにも影響を与え、人間とAIの境界が流動的でシナジー相乗効果的になると指摘する研究者もいます。このようにAIを組み込んだ人間の拡張知能システムとして集団創造性を見ることで、創造的成果を最大化するインタラクションの設計指針を得ることができます。
協創的学習と知識構築論にみるAIの可能性
教育の文脈では、創造的な学習を促進する理論として協創的学習や知識構築理論も重要です。Scardamaliaと Bereiterの知識構築理論では、学習者が対話を通じてアイデアを出し合い、相互に洗練していく過程自体が学習であり創造であるとされます。
ヴィゴツキーの社会文化的学習観に基づき、「アイデア同士の対話」による共創的な知識生成が重視されるこの理論では、教師や仲間との対話支援や共同作業の場が創造性を引き出す鍵となります。生成AIは、この知的な対話の輪に新たな参加者として加わることができます。
例えば、学習者がアイデアを議論しているところにAIが多様な情報や視点を提供すれば、相互の発想を刺激し合う助けとなります。また、AIが即時的なフィードバックや代替案の提示を行うことで、学習者は自らの考えを省察・発展させる材料を得られます。このように、人間とAIが協調して知識やアイデアを創り上げていく学習モデルが注目を集めています。
人間-AI協創ダイナミクスの代表的モデル
Wuらの「Human-AI Co-Creation Model」が示す創造プロセスの6段階
Wuら(2021)は、大規模な事例調査を踏まえて「Human-AI Co-Creation Model(人間-AI協創モデル)」を提案しました。このモデルは創造的プロセスを6つの主要フェーズに分け、各段階でAIがどのように関与し得るかを示したものです。
- 知覚(Perceiving):AIはセンサーやビッグデータ解析によって、人間には知覚・認識できないパターンや大量情報を意味ある形で提供
- 思考(Thinking):AIは創造的課題に対する分析や推論を支援し、多様な解決策のシミュレーションや洞察を提示
- 表現(Expressing):AIはアイデアの具体化を助け、文章生成AIや画像生成AIは人間のアイデアを迅速に形にする
- 協働(Collaborating):AIはチーム内のコミュニケーションやアイデア統合を促進する知的ファシリテーターとして機能
- 構築(Building):AIは実際の作品やソリューションの構築段階で専門知識やスキルを提供
- テスト(Testing):AIが作品の評価・フィードバックやシミュレーションによる検証を行い、改良を支援
Wuらのモデルは、創造の一連の活動全域でAIが補佐・協働しうることを示すとともに、それが「意味創出のあらゆる行為」を効率化し得ると述べています。このモデルは、人間同士のチームワークの重要性をAIとの協創にも拡張したものと言えるでしょう。
AIの関与レベルを段階的に捉える協創フレームワーク
AIを創造プロセスにどの程度深く組み込むかについて、HaaseとPokutta(2024)は人間がデジタルツールからAIパートナーへ移行する過程を4つのレベルで整理しています:
- デジタルペン(レベル1):AIではなく人間が全てを主導し、コンピュータは受動的なツールに留まる段階
- AIタスクスペシャリスト(レベル2):特定タスク(例:画像補完、コード補完)を自動化するAI機能が人間の作業の一部を代行する段階
- AIアシスタント(レベル3):AIがより対話的に人間を支援し、提案やガイダンスを与える段階(例:文章執筆での言い換え提案)
- AI共創者(レベル4):人間とAIが対等に近い立場でアイデアを出し合い決定していく関係で、AIも創造の主体として能動的に振る舞う段階
Haaseらは、現在一般に利用されている生成AIツールの多くはレベル2〜3に留まるものの、将来的にはレベル4の「真の協創パートナー」となるAIが登場しうると示唆しています。彼らの議論によれば、人間とAIの協創は単なる支援以上の可能性を秘めており、適切な条件下では非強化の人間の創造力を凌駕するシナジーを生み出しうるとされています。
ユーザ中心の協創フレームワークと活動理論
HCI(ヒューマン・コンピュータ・インタラクション)の分野では、人間とAIのインタラクション設計に注目したユーザ中心の協創フレームワークも提案されています。Lamら(2023)のフレームワークでは、人間とAIのエージェンシー(主体性)とコントロールのバランスを調整する次元が定義されています。
具体的な次元としては、主導権の取り方(人間主導 vs AI主導の割合)、目的の整合(ユーザ意図とAI提案の一致度)、創造範囲(AIが提案するアイデアの多様性や大胆さ)などが挙げられ、システム設計者はこれらを調節することでユーザが創造的に感じる体験を最適化できます。ユーザが自分の創造性が拡張されたと感じるには、AIが「勝手にやり過ぎない」一方で「十分に有益な提案をする」というバランスが重要であり、このフレームワークはその評価軸を提供します。
また、人間-AI協創を分析する理論的道具として、文化歴史的活動理論(Activity Theory)が活用されることもあります。GubenkoとHoussemand(2023)は、活動理論の視点から協創シナリオにおけるAIの役割を分類し、AIは(1)創造活動を支援するツールとして機能する場合と、(2)共同体の一員(パートナー)として参加し人間と役割を分担する場合があり得ると述べています。
さらに、Herrmann(2020)は「ハイブリッドインテリジェンス」の概念に基づき、人間とAIがお互い学習し合う協創を提唱しています。彼によれば、人間とAI双方の強みを活かして複雑な課題を協力して解くだけでなく、その過程で「双方が学習し進化する」ことが理想だといいます。実際、AIは人間からのフィードバックで性能向上し、人間はAIから新知識やスキルを得る—この双方向の成長が起きる協創関係は共進化的とも言えます。
創造的学習環境におけるAIの役割と教育実践
発想の触媒と多様化エンジンとしてのAI
AIはまず、発想段階の知的触媒として大きな力を発揮します。ブレーンストーミングに生成AIを組み合わせると、参加者の思考パターンにない異質なアイデアを即座に提示してくれるため、発想の幅を広げる効果が報告されています。
例えば、学習者がグループでアイデア出しを行う際に、生成AIに「もっと違った視点からのアイデアは?」「面白い実験の提案はある?」と質問すると、思いもよらない着想が追加で得られます。このとき重要なのは、AIが提示したアイデアをうのみにせず批判的に吟味する態度であり、そうすることで学習者は発想の枠組みを広げつつ自律的・批判的思考を養うことができます。
AIは知的刺激を与えるスパーリングパートナーのような位置付けで、人間の内発的なアイデア生成を触発する存在といえます。研究によれば、生成AIとの協創環境では人間はより多くのアイデアを生み出せるだけでなく、その質も向上するケースがあるといいます。
ただし、AIに頼りきりになると人間側の創造的自己効力感が損なわれる懸念もあります。McGuireら(2024)の実験では、詩作課題においてAIが生成した詩をただ編集するだけの条件よりも、人間がAIと対話しながら詩を共作する条件の方が、創造的自己効力感が高まることが示されました。つまり、AIを能動的に活用してこそ学習者の創造力は伸びるのです。
対話的支援と知識補完によるAI協働学習
創造的課題では、背景知識の調査やアイデアの検証も欠かせません。AIは知的アシスタントとして、この探究・分析プロセスを支援します。例えば学習者があるアイデアの実現可能性を調べる際、AIに関連資料を要約させたり、批判的な問い(「このアイデアの課題点は何だろう?」等)を投げかけて議論の材料を集めたりできます。
AIの応答は不確かな場合も多いですが、だからこそ学習者同士でその信ぴょう性や根拠を検証し合うことが学習につながります。このように対話型AIは、単に答えを教えるのではなく学習者に考えさせるための刺激やフィードバックを提供する役割を果たします。
教育応用の観点では、AIを「伴走者」あるいは「対話相手」として位置付け、人間のメンターロールを補完する使い方が探られています。たとえばライティング指導では、生成AIが24時間いつでもドラフトにコメントを返してくれる対話型コーチとなり得ます。その際も、最終判断や文章の統合はあくまで学習者本人が行うよう促すことで、AIの助言を受けつつ自らの表現力を磨くことができます。
田中博之らの研究が開発する教育モデルでは、生成AIに文章の推敲提案をさせたり、デザイン案を出させたりして参考にしつつ、最終的な決定は子ども自身が下すというプロセスを推奨しています。AIが批評家やレビュアーとして機能する場面も有用で、「作品をさらに改良するには?」「別視点からの改善点は?」とAIに問いかけることで、客観的なフィードバックや改善アイデアを得られます。このような対話的なフィードバックループは、創造的思考と学習を深める上で効果的だと考えられます。
協働促進とメタ認知の支援がもたらす学びの深化
グループ活動では、AIは協働のファシリテーターとしても働きます。会議支援システムにAIを組み込んだ研究では、議論の内容を自動で要約・可視化したり、発言の偏りを検出して「〇〇さんの意見も聞いてみましょう」と促したりする試みがあります。
創造的な共同作業においても、AIが中立的な立場で議論を整理し、新たな論点を提示して議論を活性化させることが期待されます。たとえばPolisという対話プラットフォームを応用した拡張集団知能(の実験では、オンラインで多数の人々とLLMを組み合わせ、リアルタイムに意見をクラスタリングすることで合意形成やアイデア集約を図っています。
この研究では、AIはツールではなく仲間とみなした方が良いと述べられており、AIをグループの一成員として扱う発想が重要とされています。実際、AIを「仲間」や「チームメイト」だと捉えることで、人間側の心理的エンゲージメントが高まり創造成果が向上する可能性が示唆されています。
また、創造的学習では振り返りとメタ認知が重要です。AIはこのフェーズにも貢献できます。例えば、学習者とAIの対話ログやアイデアの変遷を時系列で記録・可視化することで、後から「どういう思考経路で最終アイデアに至ったか」を分析できます。田中氏らのモデルでは、ポートフォリオ的にAIとのやり取り履歴や試行錯誤の過程を整理し、振り返る活動を推奨しています。
これにより自分の創造プロセスのクセやAI活用の良し悪しに気づき、次の課題への改善目標を立てることができます。さらに、学習者が「AIにやってもらった」のではなく「AIと一緒にやり遂げた」と実感できるような協創デザインが、創造性に対する自信と意欲を育みます。教育現場で生成AIを活用する際は、学習者が単に受け身でAIのアウトプットを消費するのではなく、能動的にAIを使いこなし、互いにアイデアを出し合っている状況を作ることが大切です。
まとめ:AI時代の集団創造性が切り拓く教育の未来
人間の集団創造性にAIが加わることで生まれる協創ダイナミクスと学習効果について、本稿では理論的枠組みとモデルを概観しました。知識創造理論や分散・拡張認知の視点は、AIを含む創造プロセスを理解する上で有用な概念基盤を提供します。さらに、具体的な協創モデル(SECI×AIの統合モデル、Human-AI協創モデル、協創レベルモデルなど)や教育実践から得られた知見は、実際にどの段階でどのようにAIが人間の創造活動を支援・拡張できるかを示唆しています。
総じて言えるのは、AIは適切に設計・活用すれば「知的触媒」「多様なアイデアの創出者」「対話的コーチ」「客観的批評家」「協働の潤滑油」として、人間の創造性を高めうるということです。しかしそのポテンシャルを引き出すためには、人間が常に協創の主体であり続けること、すなわち人間の好奇心・目的意識・価値判断といったクリエイティブエンジンを中心に据え、AIはそれを補完する存在として位置付けることが重要です。
創造性教育の場では、AIとの共創体験を通じて学習者がより高次の発想や自己洞察を得られるようなカリキュラム設計が求められます。今後、技術の進歩に伴いAIはますます「創造のパートナー」らしく振る舞うようになるでしょう。そのとき人間側が受け身になるのではなく、AIとの対話から学び合い共に生み出す力を育むことが、教育・研究における大きな課題かつチャンスとなるはずです。
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